マダコの生態、繁殖時期、旬など
マダコ(真蛸、学名: Octopus sinensis)を釣るには、まずマダコの生態を知るべきです。
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もくじ
日本の一般的なタコ
タコは世界で約300種類が確認されていて、日本での一般的なタコと言えばマダコ(Octopus sinensis)です。一方、アメリカやヨーロッパでの一般的なタコは大西洋や地中海にいるのはOctopus vulgarisです。両者は非常に似ていて、近年まで同じ種だと混同されていました。
2002年までの文献を基にして作成された環境省のウェブページではそれを思わせる記述が見られます。(2019年5月執筆時)
瀬戸内海を含む西日本で、最も普通に見られるのがマダコ(Octopus vulgaris)です。マダコは日本のみでなく、オーストラリア、大西洋、地中海など全世界の温帯域の砂礫や岩礁海域に広く分布します。しかし、非常によく似ていて区別が難しい複数の種を含んでいる可能性が高く、現在分類の見直しが進められています。今後、日本のマダコは独立した種として扱われるようになるかも知れません。
日本ではタコの消費の多くをモロッコやモーリタニアなどアフリカ北西部からの輸入に頼っていますが、両種はそっくりですよね。(今まで生物学者ですら見分けがつかなかったわけですから。)
生息域、分布
マダコ(Octopus sinensis)と類似種のタコ(Octopus vulgaris)は世界中に分布し、北緯40度~南緯20度程度までの比較的温暖な海域にある陸地や島から500 km圏内の沿岸部の浅い海に生息しています。
- アジア
日本での北限は青森まで。韓国では黄海全域(韓国と中国の間の海)から朝鮮半島の東沿岸部にかけて生息する。南限はオーストラリアやフィジー近海。オーストラリアのブリスベンやシドニー、ニュージーランド以南には生息しない。
また、ハワイやポリネシアなど、小笠原諸島の近海から東側の太平洋の中心部には生息しない。パプアニューギニア島周辺には生息しているが、その北にあるグアム島やミクロネシア、マーシャル諸島はほぼ分布境界線にあたる。ハワイでの一般的なタコはOctopus cyanea。
- ヨーロッパ
地中海全域。大西洋側の北限はポルトガルまでで、フランスのボルドー沿岸には生息しない。地中海と接続している黒海や、絶縁されたカスピ海には生息しない。
- アフリカ大陸
北限はポルトガルや地中海から連続している。南限は、インド洋ではマダガスカル島近海、モザンビーク沿岸。大西洋側ではアンゴラかその南のナミビアの国境付近までの沿岸。
- アメリカ大陸
大西洋側は、北限はニューヨーク州に南接するニュージャージー州、南限はブラジルのリオデジャネイロ沖まで。
太平洋側は、北限はサンフランシスコで、南限はチリの北端部まで。
水深
干潮時に干上がるような水深1 m未満の浅瀬から水深40 mまで幅広く生息しています。
底質
タコと言えば岩礁帯の岩陰にひそむイメージがありますが砂礫や砂泥底にも擬態して生息していて、例えば海水浴場にいることだってあります。
エサ、捕食物
タコは主に貝、カニのほか、魚や海底に沈んだ魚介類の死骸などを捕食します。
単に触腕で捕まえるだけではなく、口(口球, タコトンビ)で噛んだときの唾液で獲物を痺れさせています。人間も噛まれると普通の傷よりも痛みが長期化します。
生活史
寿命
マダコの寿命は1年から2年。長くても3年。
ミズダコ(英名: giant Pacific octopus, 学名: Enteroctopus dofleini)の場合も2年から3年ですが、なかには5年間生きる個体もいます。
ちなみにタコの中には6ヶ月しか生きられない種もいます。
交尾、繁殖期
繁殖の準備に入るのは初夏から初秋頃(6月上旬~10月)。特に9月前後が最盛期。(日本語版のWikipediaには産卵時期が春~初夏との記述がありましたが、詳細は産卵時期に関する情報の項をみてください。)
オスの触腕の8本のうち1本はヘクトコティルス(hectocotylus)と呼ばれる生殖腕(触腕の先端がスプーン状になっている生殖器)で、先端に付いている精母細胞を持つ精莢(精子の入ったカプセル)をメスの体内に入れることで受精します。
Youtubeを見渡してみると、英語圏の動画の多くはマダコ(Octopus sinensis)ではなく大西洋に棲む一般的なタコ(Octopus vulgaris)でしょうが、遠くから生殖腕をそっけなく伸ばすタコもいれば、ガッツリなタコなど様々いるようですね。
産卵
交接から2週間から3週間(14-20日)後、メスはオーバーハングした(せり出した)岩の天井や岩陰にぶら下げるようにして、幅1 mm、長径2.5 mmほどの楕円形の卵を10万個から15万個 房にして産み付けます。この様子がフジの花のようであることから海藤花(かいとうげ)とも呼ばれます。
マダコのメスは、産卵から孵化までの1ヶ月間 自分の漏斗で卵に新鮮な海水を送り続けて、孵化を見届けたあとすぐに死亡します。つまり、マダコの場合オスもメスも、交配後は数週間しか生きることができません。(メスのほうがちょっとだけ長い)
ちなみに、ミズダコの場合は産卵から孵化までが約5ヶ月間(160日間)。
種類 | 交接期 | 産卵期 | 交尾 から 産卵 | 産卵 から 孵化 | 孵化時期 | 生息水深 | 精莢の数 | 精莢の長さ |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
マダコ | 初夏~秋 5月~10月 | 6月~10月 | 14日~20日 | 1ヶ月 | 7月~11月 | 数 m~40 m | 数百本 | 5~8 cm |
ミズダコ | 晩秋~春 11月~4月 | 9月~10月 | 40日 | 5ヶ月 (160日) | 5月~10月 | 13 m~70 m | 1~12本 (1回で2本) | 80~100 cm |
両視腺の除去と捕食の再開
タコの寿命は産卵後の消化腺の不活性化で起こります。つまり、繁殖行動をとるとエサを食べなくなり餓死するのです。
でも産卵後にメスダコの両視腺を除去した実験では、繁殖が停止し、捕食の再開と成長、大幅な寿命の延長を確認した研究結果もあります。1
産卵時期に関する情報
どれくらいばらつきがあるのか、インターネットで見られるマダコの産卵時期に関する情報を集めてみました。
情報元 | 時期 | 地方 |
---|---|---|
産卵期は5月から10月(東京都島しょ農林水産総合センター) | 5月~10月 | 東京都 |
マダコの産卵(魚津水族館) | 6月11日 | 富山県 |
産卵は夏から初秋にかけて(神港魚類株式会社) | 7月~9月 | 兵庫県 |
8~9月には,漁獲後に収容しておいた化繊ネットに産卵しているのが確認(青森産技) | 8月~9月 | 青森県 |
瀬戸内海では9~10月が産卵の盛期(環境省) | 9月~10月 | 瀬戸内海 |
マダコが産卵した(Youtubeの南紀和歌山釣太郎さん) | 10月19日 | 和歌山県 |
日本語版のWikipediaには産卵時期が春~初夏との記述がありましたが、色んな情報を見てみると初夏~秋だとする記述のほうが圧倒的に多くて、実際に動画や画像で確認できるものだと6月11日や10月19日があり、裏付けされています。
孵化
孵化したばかりのマダコの幼生(赤ちゃん)は体長が2 mm~3 mmです。着底するまで3週間~4週間も海流を漂い、この間に多くの幼生が捕食者に食べられてしまいます。
生き残ったごく僅かな幼生は海底で成長し、早い個体で約1年後に繁殖行動をとります。
夏場に釣れる麦わらダコ
タコの産卵シーズンについて、春~初夏ではなく秋だという説に説得力を感じる1つの理由は麦わらダコの存在です。
- 麦わらダコ
6月頃に釣れる新子のタコ。前年に生まれた若いタコ。身が柔らかくて美味しい。
私が調べた中では、マダコについては受精から産卵までの期間が約2週間~3週間。ミズダコの場合は受精から産卵までが約40日、産卵から孵化までが5ヶ月ですから、マダコはそれよりもずっと短いです。(1/2~1/3)
例えば産卵が5月(春から初夏の中間)だと仮定した場合、孵化が6月。7月の釣りシーズンまでたった1ヶ月。ほぼ生まれたてです。
養殖のマダコでさえ60日齢(生後2ヶ月)でも体長は3 cmです。成長の早い個体だと7ヶ月で1 kgほどにはなりますが、いくらタコが急成長をするとはいえ、新子サイズ(200 g以上)まで成長するには孵化から最低でも4ヶ月、あるいはもっとかかりそうではありませんか?特に天然の場合はエサの具合によって成長が遅いはずです。
上記を踏まえると、もし春に生まれたのなら麦わらダコは冬に釣れるはずです。(でもそうじゃない)
これらの理由から、秋に産卵していると考えるほうが自然だと私は思うんです。9月に交接、10月に孵化すれば、翌年の6月(8ヶ月後)には大きいもので1 kg近くにはなっているでしょう。ただ前年生まれなら成長が遅くなる冬を越しますから、養殖のようには大きくならないでしょう。
でも夏場には50 gくらいのめっちゃ小さいマダコが釣れることもありますよね。あれこそ本当の新子のタコで、交接が2月とか3月で、孵化が4月くらいのやつだと思うんです。
なので繁殖期の振れ幅自体がかなり大きいんじゃないかなーと。(確証はない)
マダコの旬
情報元 | 時期 | 地方 |
---|---|---|
土用のタコは親にも食わすな | 8月1日前後(土用: 8月8日頃の立秋前の18日間) | 全国 |
むぎわらダコ(前年の秋に孵化した生後1年未満の若いタコ) | 梅雨時 | 全国 |
半夏生にタコを食べる風習 | 7月2日頃(半夏生: かつては6月21日前後の夏至から数えて11日目) | 関西地方 |
正月のおせち料理に酢だこを入れる | 1月1日(11月~1月) | 関東地方 |
関西では夏、関東では冬
旬はそれぞれ関西では夏、関東では冬とされています。
夏場になると生殖器官に栄養が取られて味が落ちることを考えると「冬のタコが美味しい」というのは一理ありますが、1歳未満の麦わらダコの多くは繁殖活動をしないでしょうし、1歳以上のタコでも繁殖活動に入っていなければ味は季節に関係ないように思えます。そもそもタコの身はタンパク質がほとんどで、魚のように季節によって脂が大量に乗るような変化がありません。
関西圏に住む私個人的としては夏のタコはやっぱり冬より美味しいわ~とか感じたことがありませんし、これは実質的な栄養分や味がどうとかいうよりも文化的なものではないでしょうか。
インターネットでも色んな情報が見られますが、ただ単に「冬が旬」だと言っている人は関東人で、「夏が旬」だと言っている人が関西人なだけな気がしてなりません。(笑)
「夏が旬」←まだ分かる、「冬が旬」←うん?
「夏が旬」だというのは、それなりの理屈があって納得できる部分があります。
「若くて柔らかい麦わらダコを食べよう」
「夏バテには(タウリンなどが豊富に含まれていて)滋養強壮に良いとされているタコを食べよう」
とか。たとえ年中タコの栄養価が変わらなかったとしてもね。
ただ胡散臭いと感じているのは「正月前後が旬」だとする説です。だってね、現代の日本で言われている正月って西暦ですよね。
もし江戸時代以前から関東で「正月が旬」だと言われているのならその正月は旧暦(現代中国の春節に相当)であって、西暦での1月末から2月中旬です。冬が旬だという人は11月~1月、人によっては10月~12月だとさえ言う人もいます。これでは流石にちょっとずれ過ぎではありませんか?
私は、この「正月が旬」というのが西暦が導入された明治以降、「正月商戦のために作られた風習なのでは?」とさえ邪推しています。
仮に江戸時代以前から「正月が旬」とする風習があったのなら、現代の人は「1月~3月(或いは12月~2月)が旬」だと言わないと辻褄が合わなくなりませんか?
オスとメスの見分け方
オスかメスかは吸盤を見ると分かります。
マダコの吸盤は1本の触腕に対して2列です。メスの吸盤はそれぞれの大きさが均一で、規則正しく並んでいるのが特徴です。
一方、オスの場合は極端に大きい吸盤が混ざっていたり大きさがバラバラで配列も不規則です。途中で1列になったり3列の部分もあったりします。
- メスの吸盤
- オスの吸盤
インターネットの画像検索で見られる多くのタコのイメージはメスです。なぜかというと、メスの吸盤のほうが見た目が綺麗なので、イメージ画像として映えるからです。
オスとメスの味の違い、どっちが美味しい?
一般的にはメスのほうが身が柔らかくて美味しいと言われています。
でも春~初夏の繁殖期になるとメスは卵に栄養を注ぐため、オスよりも美味しくなくなることもあります。また私個人の経験としては、そもそもそこまで極端な味の違いは無いというか、違いは無いというのが正直なところです。
茹で加減とか下処理の精度とかのほうが圧倒的に味に影響を与えていると感じます。
完全養殖
2017年6月8日付けで、ニッスイ(日本水産)はマダコの完全養殖技術を構築したと発表しています。
この発表内容を見ると、養殖のマダコについて次のことが分かります。
4月に孵化した幼生は7月には稚ダコとして安定期に入る。
孵化後60日で体長2 cmから3 cmになる。
孵化後7ヶ月で体重が1 kgを超える。
孵化後9ヶ月から11ヶ月で交尾や産卵をする個体もいる
孵化後の日齢、月齢 | 体長、体重 | 備考 |
---|---|---|
60日 | 体長2 cm~3 cm | 体は少し赤みがかっているがまだ半透明で白っぽい |
7ヶ月 | 体重1 kg | |
9~11ヶ月 | 体重1 kg以上 | 繁殖行動をとる個体もいる |
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